議会報告

●米田議員 私は日本共産党を代表して、只今議題となりました議発第5号「こども庁設置を求める意見書」議案に、反対する立場から討論を行います。

子どもの政策を「一元化」する行政庁をつくるとして、にわかに浮上したのが自民党の「こども庁」創設の議論です。6月に閣議決定された「骨太の方針」に、「こども庁」を念頭に、子ども政策の司令塔となる新たな組織について「早急に検討に着手」するよう盛り込みました、

子どもの命や権利を守ることを政治の中心に位置付けることは極めて重要ですが、「こども庁」創設には、問題のすりかえという批判が上がっています。

首相の動機は、デジタル庁設置に続く、「縦割り行政打破」の新たな目玉政策をつくるため、「衆院選のアピール材料にする狙い」と報じるメディアも少なくありません。

4月9日付高知新聞社説は、「なぜ今、子ども庁新設なのか。新組織の必要性や役割が漠然としていることを含め、唐突な印象は拭えない。10月に衆院議員の任期満了を控え、菅首相がいつ解散・総選挙を決断してもおかしくない。そうした状況での構想浮上が『総選挙をにらんだアピール』『目玉公約づくり』とみられても仕方あるまい。

国民が求めているのは新しい組織ではなく、あくまで子どもを産み育てやすい環境であり、政策の実効性だろう。新組織を打ち出す前に、従来の施策がなぜ思うような効果を上げられなかったか、省庁間の連携で何が支障だったのかを洗い出すべきではないか。」と指摘をしています。余りにも当然の意見です。

子どもをめぐる政策が大きく立ち遅れているのは、歴代自公政権が、解決を求める国民の切実な願いに背を向け続けてきたからではありませんか。竹中平蔵氏も顧問をつとめる日本経済研究センターは、元内閣参与の田中秀明・明治大学教授の「こども庁の問題点は何か」というレポートを配信しています。その中で、田中氏は「組織より重要なのは子育て支援そのものである。近年、子育て支援、児童手当拡充などの家族対策の予算は増額されているが、先進諸国に比べれば見劣りする。日本の家族対策支出は、対国内総生産(GDP)比で1.6%。経済協力開発機構(OECD)加盟国39ケ国中の30位にとどまる。」と、子ども施策への予算の少なさを指摘しています。

また、元中教審委員の教育研究家・妹尾昌俊氏は、「『こども庁』つくったら、問題は解決する?子どもファーストなら、もっと先にやるべきことがある。」というレポートの中で、「真の問題は縦割りか」と疑問を呈し「マンパワー不足のほうがはるかに深刻な問題です。」と、子どもの発達を支える体制に予算を投入してこなかった問題を指摘しているのであります。

この10年で児童相談所での虐待対応件数が4.38倍に増えたのに対し、児相の児童福祉司は1.74倍の4234人にとどまり、受け持ち件数がアメリカの2倍、一人40件を超えていることや、「学校の教員も、児相以上に長時間労働の人は多くて、本当に大変です」と告発をしています。小中学校の学級規模は、OECD諸国で2番目の多さで、EU諸国より、4割から5割も多い、一方、勤務時間は世界一長いのに、授業に当たる時間は勤務時間の半分以下という世界に類を見ない異常な状況となっています。

保育士、学童指導員などの低賃金、職員配置基準の低さが、担い手不足として社会問題になっています。ケア労働を家事の延長と見なして、専門性を評価せず、抜本的な改善策を取ってこなかった結果です。

労働者の実質賃金は、97年比で、先進国は軒並み1割以上増加しているのに、日本のみ1割低下をしています。非正規雇用が4割に迫るところまで拡大してきたからです。特に社会を維持していくために不可欠なケア労働の担い手の多くが女性ですが、その56%は、パートや派遣、契約社員などの非正規雇用です。女性の賃金は、正社員同士で比べても男性の75.6%にすぎません。過労死を生み出し、家庭との両立を阻む日本の長時間労働は、年間2021時間と、ヨーロッパより、500-700時間も多くなっており、女性の社会進出を阻んでいます。派遣労働、裁量労働制など、一連の規制緩和を進めてきた結果です。子どもの貧困でも、子どもの多い世帯ほど打撃が大きい生活保護改悪を強行するなど、逆行した政策を進めてきました。子どもと国民に苦難を押し付けてきた政策を反省し、根本的に転換することこそが求められています。

意見書議案は、「一元的窓口」がないことで、要望や相談に「適切な対応ができないケース」があると述べていますが、真の課題は、以上指摘したように、子どもたちと日々接する現場の脆弱な体制、マンパワーの不足、現場職員の劣悪な労働環境、子どもと国民の貧困、そして「財政的な制約」、予算の少なさ、にあることは明らかです。

そのことに無反省のまま、またまともな検証もなく「こども庁」を持ち出しても、子どもの貧困解決など期待できないだけでなく、屋上屋を重ねるだけに終わることになるのではありませんか。

最後に、菅首相は「こども庁」案を語る中で、社会保障は「いままで高齢者中心だった。思い切って変えなければ」と強調しています。しかし、日本の社会保障は、欧州諸国に比べ高齢化が進んでいるのに給付費があまりに少ないことこそが問題です。GDP比での社会保障給付全体を見ても日本は22.9%でドイツ27.7%、フランス32.1%と比較して極めて貧困です。ドイツ並みにすれば25兆円、フランス並みなら50兆円の新たな給付増となります。国力に対する給付が、日本はあまりにも貧弱です。「こども庁」議論で、世代間の対立をあおり、高齢者への社会保障費削減に結び付けることなどは決して許されるものではありません。

昨年からのコロナ危機で、政治と社会のゆがみをあぶり出しました。安心してこどもを生み育てることが出来る社会、8時間働けば当たり前に暮らせる社会、こどもを真ん中においた一人ひとりの発達、可能性を支える教育、お金の心配なく学べる社会、多様性と個人の尊厳を重んじるジェンダー平等の社会をつくっていくことこそが政治の役割であり、責任ではありませんか。

このことを訴えて、議発第5号議案に対する反対討論とします。同僚議員のご賛同を心よりお願いをいたします。